こだわりの買い物と惰性の買い物
お買い物をするときあなたはどちらのタイプでしょうか。目新しいものが好きで新製品にはすぐ飛びつくタイプ?あるいは自分のこだわりを大切にして検討に検討に重ねてお気に入りを迎えたい方でしょうか。
長い期間使うものや家電などは私もこだわってあれこれ調べます。こだわりすぎて何年も買えない時もあったりしますがまたその過程も楽しい。それとは別に、深い理由があるわけではないけれどいつも同じものを選んでしまう商品があります。
例えば洗剤について考えてみます。私は洗濯用洗剤は液体の「さらさ」をもう何年も使い続けています。「冬、水が冷たいと粉末洗剤の溶け残りが気になるから液体がいい」という要望と「中性洗剤はアルカリ性洗剤(大抵の洗剤は弱アルカリ性)より繊維に優しいという記事を読んだ」が頭にあってたまたま見つけたのが「さらさ」でした。
もしかしたら他にもっといい洗剤があるかもしれません。でも取りたてて不満はないし面倒だから当面はこのままでいると思います。とはいえ頂き物の「部屋干しトップ」が家にたくさんあるので天気が悪い時などはありがたく使わせていただいています。ね、一貫性がないでしょ。
こういう買い方を「惰性による買い物」と本の中では呼びます。そしてみんなが「惰性による買い物」ばかりしていたら新しい商品が売れません。新しいもの・いつもと違うものを手に取ってもらうために、つまり消費者の「買い方についての習慣」を変えるために企業が行っていることを見ていきます。
生活スタイルが変わる時
就職や結婚、引越しを機に今までとは違う新しいものに興味を惹かれることはよくあります。また生活スタイルが変わると必需品の内容が変わってきます。例えば転職で職場のドレスコードが変わるとクローゼットの見直しが必要になります。服が変われば小物類もそれに合わせて増やしたり減らしたり。
物を売る立場から考えてみます。顧客の生活スタイルの変化に伴う新しいニーズを事前に察知することができたらどうでしょう。購入を検討しているときに「うちではこれがお薦めですよ。ご一緒にこちらもどうですか」とその人が欲しいと思っているものを適切なタイミングでアピールできたら?
ターゲットとビッグデータ、隠れたニーズを探せ
ターゲットというのは全米に多数の店舗を構える総合ディスカウントストア。90年代の終わりごろから統計の専門家を雇って膨大な量の顧客の購入履歴を分析させ、新たな購買につなげるための個別広告戦略に取り組んできました。
To a statistician, this data was magic window for peering into customers’ preferences. (p183)
このときターゲットが注力したのはまもなく子供が生まれそうな家庭を見つけること。子供の誕生というライフイベントはターゲットにとって大きなビジネスチャンスのスタートなのです。
出産準備品から始まって子供の成長に伴って必要なものはどんどん増えます。購入に先駆けて先手先手で広告を打てればターゲットを利用してもらえる確率は高くなりますね。少なくとも顧客の「惰性による買い物」に刺激を与えるきっかけとなります。
when someone suddenly starts buying lots of scent-free soap and cotton balls, in addition to hand sanitizers and an astounding number of washcloths, all at once, a few months after buying lotions and magnesium and zinc, it signals they are getting close to their delivery date. (p194)
この戦略の新しさ(当時)は「顧客が欲しいと思っている商品」を売り込むのだけではなく「顧客自身が気づいていないニーズに焦点を当てようとした」という点です。Chapter7のタイトル「How Target Knows What You Want before You Do」はこのことを指しています。
分析の精度が上がるにつれ売上は伸びていきました。けれども顧客の中には今でいう「個人情報の侵害」と不快感をあらわにする人も出てきます。企業がどこまで個人の私生活に踏み込むことが許されるのか、これは「ビッグデータ活用」が当たり前となっている現在でも常に考慮すべき重要なテーマです。
私たちの身近にも
例えばアマゾンで商品ページを見ると。「この商品を買った人はこんな商品も買っています」や「最近閲覧した商品とおすすめ商品」というコーナーがあります。アマゾンの売上データの中から今見ている商品と同時に売れた商品をピックアップし、あるいは最近自分がチェックした商品と同時に売れた(または同時に閲覧されている)商品をピックアップし表示しているのですね。
これらはすべて消費者の「無意識のニーズ」に訴えかけてより多くの商品を買ってもらおうという仕掛けです。Aというひとつの商品を選択した時にAと同じジャンルの商品は何か、Aと同価格帯の商品は何か。Aを購入した顧客が他に同時に購入した商品にはどんなものだろうか。
このような様々な切り口からデータを分析し「Aを買った人は高確率でこの商品も気に入るだろう」とシステムが判断した商品が「この商品を買った人はこんな商品も買っています」であり「最近閲覧した商品とおすすめ商品」に表示されているのです。
ビッグデータの活用は日本では2011年頃から注目され始め、今ではあらゆるジャンルの商品・サービスの販売において欠かせない経営戦略のひとつです。それ以前はDWH(データウエアハウス)と呼ばれるシステムが一般的でした。
DWHの頃は商品名や金額などのテキスト・数値データが中心でしたがビッグデータはそれに加えてメールのデータや画像データなど扱うデータの種類が多岐にわたります。いずれにしてもシステムの構築が最終目的ではなく、集めたデータを経営者がどのように活用していくかが重要なのですね。
余談ですが初めて「データウエアハウス」という言葉を聞いた時「データウエア・ハウス」と解釈して意味が分からなーい???と困っていたことを思い出しました。正しくは「データ・ウエアハウス(データが入っている倉庫)」ですね。今となっては笑える思い出です。