brain rules-2 睡眠学習の効果

今日のテーマは睡眠です。『寝る子は育つ』といいますが、睡眠は身体だけでなく脳にとってもかなり大切。

人は寝ないとどうなるのか

まずは1959年に行われた『寝ないことが身体的・精神的に与える影響』という実験について。

被験者の仕事はラジオのDJ。実験中も毎日ラジオの仕事を続けました。実験開始からしばらくは彼の様子に変化はありません。いつものように冷静で、ユーモアを交えた語り口は普段通りの彼そのままです。

72時間を過ぎたあたりから行動に変化が見られます。いつもの彼とは違って周りにいる人に対する攻撃的な言動が目立つようになります。どうやら幻覚が見えているようです。この実験は研究室の中ではなく人通りの多い街中に置いたガラス張りのブースで行われました。彼を知っている一般の人や、番組スタッフや、もちろん実験に関わる研究者が彼の行動を見張っているのです。研究者が認知テストを行ったところ、通常の半分程度に認知能力が低下していることがわかりました。

120時間(5日間)を過ぎると彼のメンタルパワーは時間の経過に伴ってどんどん低下します。研究者はこれ以上は危険と判断し実験は終了となりました。

健康的に暮らすために必要な睡眠時間

After all of these centuries of experience with sleep, we still don’t know how much of the stuff people actually need. Generalizations don’t work. (p47)

 

The Power of Habitを読んでいた時、早寝早起きを習慣にしたいと宣言しました。現在の起床・就寝時間はその日のスケジュールによることが多いのですが、もし理想的な起床・就寝時間があるならそれに従ってみようと思ったのです。ところが著者によると適切な睡眠時間というのは個人差が大きく一般化はほぼ不可能なようです。

ある研究では7時間未満の睡眠で試験を受けると成績はいつもよりも低下したという結果が出ています。別の研究では一晩徹夜をするとパフォーマンスが30%低下し、二晩徹夜をするとパフォーマンスは60%低下するという結論が出ました。

何時間寝ればOKという絶対的な数値はなくてもその人にとって『睡眠が足りてない』状態では本来の能力を発揮できないのですね。誰でも経験上知っていると思いますが念のため。

寝だめは有効なのか

普段は十分な睡眠がとれなくても休日などにのんびり起きることがあると思います。不足した睡眠時間のリカバリは可能なのでしょうか。

For example, if healthy 30-year-olds are sleep deprived for six days, parts of their body chemistry soon revert to that of a 60-year-old. And if they are allowed to recover, it will take almost a week to get back to their 30-year-old systems. (p48)

 

睡眠不足は体の老化を早めます。例えば30歳の健康な人が1週間睡眠不足で過ごすと体は60歳の人と同じ状態に変わってしまいます。でも翌週十分な睡眠をとればまた30歳の体に戻れるとのこと。不足した睡眠分を補うことができればリカバリは可能です。『寝だめ』には一定の効果がありそうです。

睡眠学習

子供の頃雑誌(『中一時代』とかそういう感じの)によく載っていた『睡眠学習器』の広告。暗記物が苦手なのでとても欲しかったです。もちろん買ってもらえませんでしたが。そもそも『睡眠学習』は効果があるのでしょうか。

The answer was yes, if you allow them to sleep on it. (P50)

 

学生に『ある数学問題の別の解き方を12時間後に答えなさい』という課題を与えたところ別解を見つけた学生は20%ほど。同じ課題を与え『12時間の間に睡眠を8時間程度とること』と条件をつけた場合は別解を発見した学生が60%に増えました。寝ている間も(無意識のうちに)問題に取り組んでいたかのようです。

『夢の中でひらめいた』ことが世界を揺るがす大発見という話をときどき耳にします。寝ている間の脳は起きている時とは違う活動をするため『アイディアが夢に出てきた』は誰にでもありうることなのです。起きているときに新しいことを知ると(勉強だけでなく新しい体験などでも)、脳は寝ている間 – 外界から情報が遮断されている状態 – に新しく取得した知識に何度もアクセスして記憶を固定します。

本人は寝ているので無意識の行為なのですが脳は一生懸命そのことを考えています。寝る前に勉強したり考え事をすると、起きたときには勉強したことがより理解できていたり考え事の答えが見つかることは珍しくないそう。難しい問題に徹夜で取り組むよりも、だいたい考えたところで寝てしまえば翌朝には答えが見つかってすっきり起きられそうです。

脳のしくみを検証すると『睡眠学習』というのは理にかなっていることがわかります。『睡眠学習メソッド』(私がつけた名前)は学習以外の場面でも有効で、グループで作業をするときなどメンバーの意見がまとまらなかったりよいアイディアが出ない時などはいったん議論を打ち切ります。翌日議論を再開すれば、前日の内容が寝ている間に頭の中で整理されているのでより効率良い話し合いができるはずです。

The neurons of your brain show vigorous rhythmical activity when you’re asleep – perhaps replaying what you learned that day. (P55)

つづく。