読書メモ『ゼロからトースターを作ってみた』

トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた』

今回、僕はトースターを作ることと同じ位、さまざまま場所を旅することを楽しんだ。あえてこっぱずかしいことを言うと、このトースターは多くの思い出が詰め込まれたものだから、僕がそれを捨てることは絶対にない。スコットランドの高地を歩き、ウェールズにあるパレース・マウンテンの立杭をよじ登り、クリアーウェルのサンタの洞窟を訪ねた。

 

ポップアップトースターを自分の手で作ってみたい。

ポップアップトースターは何からできているのか。

ある日こんなことを思い立ったイギリスの学生トーマスが、トースター作りに奮闘する様子をまとめたお話です。

彼の試みのすごい点はトースターを構成する原材料を作るところから始めるということ。鉄は鉄鉱石から鋳造し、ニクロム線はいろいろ調査した結果ニッケル硬貨を加工して、プラスチックの製造にもチャレンジする…

まるで『痛快!カガク大実験』さながらの、化学大実験よりももっと先行きが見えない壮大な、でもある意味ばかばかしくて面白いプロジェクトです。

なんでトースターなんだ?という疑問には

「あると便利、でもなくても平気、それでもやっぱり比較的安くて簡単に手に入って、とりあえず買っておくかって感じで、壊れたり汚れたり古くなったら捨てちゃうもの」のシンボルが、トースターなんだ。

 

普通のトースターってそんなに高いものではない。どこの家にもひとつくらいはあるようなお馴染みの家電。でも、それが何からできているのか、その製造過程ではどんなことが行われているのか、といったことは普通の人はあまり考えずに買ってくるし毎朝使っています。

トーマスはトースターの構造や仕組みを知りたいというよりは、トースターがトースターとなって自分たちの手元に届くまでの間、自分の知らないところで何が起きているのかを知りたいと思ったのですね。そしてそれは当初想像していたよりもずっと頭も体力も必要な壮大な物語でした。

状況を整理しよう。原油はまず手に入れられそうにない。そして、みんなが忠告してくれたように、それをプラスチックに変えるのは、個人レベルでできそうな作業ではない。バイオプラスチックにしても同様だ。唯一、実現の可能性がありそうだったのは、じゃがいものプラスチックだったけど、結局固める段階でひび割れてしまった。

 

この本はプロジェクトのブログをまとめたものですが、ブログ本にありがちな独特の読みにくさは全くなくて普通に書物として楽しめる構成となっています。そして翻訳が素晴らしいです。あとから出た文庫版はタイトルが少し変更になっていますね。カガクに苦手意識があったとしても読み物として単純に面白いのでぜひどうぞ。