Getting to YES [ハーバード流交渉術] -4 交渉が理想通りに進まない時の対処方法

BATNA ← Best Alternative To a Negotiated Agreement (p99)

相手と自分の力(権力)に大きな差があって、自分のInterests(利益・要求)を得ることが難しい状況のときどうしたらいいか。優れた代替案(利益・要求)を用意しておくと強気で交渉に臨むことができます。ベストな代替案のことをハーバード流交渉術では「BATNA」と呼びます。

つまり交渉が成功するかどうかは効果的な「BATNA」を準備できるかどうかにかかっているわけです。Invest Options for Mutual Gain のところでもinterestsを決定するにあたって複数のオプションを探そう (p62-72) という話がありましたが、ここでもアイディア出しからスタートします。

効果的な「BATNA」を見つけるための3ステップ(p105-106)

  1. 合意が得られない場合の代替案をリストアップする
  2. リストアップした案を煮詰めていく
  3. より現実的・効果的なものを選ぶ

家の売却を考えているが希望する価格では買い手が見つからない。値下げをすれば買い手は現れるかもしれないが、手元に入る金額は少なくなってしまう。

この場合の代替案としては売却ではなく賃貸に出すということが考えられます。売却に比べると一定期間に入るお金は少なくなりますが買い手が見つかるまで空き家にしておくよりはよいし、時間の経過によって当初の希望価格で売却するチャンスが訪れるかもしれません。

相手が立場を武器に攻めてきたら

Negotiation Jujitsu (p109) – ネゴシエーションジュウジツ

Jujitsuとは「柔術」のこと。柔術は武術のひとつで流派が様々あるようですが基本的には相手を傷つけることなく自分の身を守ることを重視するそうです。この考え方を交渉に応用したものが Negotiation Jujitsu です。

In shot, if they push you hard, you will tend to push.back. (p109)

相手が攻めてきたら少し引いてみよう。日本人には馴染みがあって得意なのではないでしょうか。相手が攻めてきたら反撃はしないで相手の関心が交渉すべき問題点に向くように仕向けます。と言葉でいうのは簡単ですが実際にはどのようにふるまえばよいのでしょうか。3つポイントを挙げます。

  • 相手が理不尽なことを言ってきたら反論せずに相手の言動の背景を探ってみよう
  • 自分の利益を押し通そうとせず、相手の意見を聞くようにしよう
  • 自分の主張は質問の形で相手に問いかけ、そのあと少し間を置こう

「間を置く」というのはかなり有効な手法のようです。相手に質問を投げかけておいて休憩に入るとか、その日の交渉は終わりにして続きは別の日に延期するなど一旦交渉をストップします。交渉の場を離れると双方が冷静にこれまでの内容を検討できるため、前向きな交渉がしやすくなるそうです。

相手が汚い手を使ってきたら

  • ものすごく相手の力(立場)が強かったら?
  • 相手の要求がエスカレートする一方だったら?
  • 個人攻撃がひどくて心が折れそうになったら?

などなど、実際の交渉の場において起こりうる困った場面をどう乗り越えていったらいいのでしょう。いくつかピックアップします。

case 1 : 相手が不誠実 -Ambiguous authority. (p135)

交渉した相手は実は最終決定権を持っていない、というパターン。交渉を始める前にまず「誰が最終決定権を持っているのか」を確認します。もし曖昧な返答が返ってきたら権限を持つ人との交渉を求めるか、あるいはこちらも相手側と同じように案件を持ち帰り検討することを明言しておくとよいでしょう。

case2 : 個人攻撃 -Personal attacks. (p137)

交渉の内容とは直接関係ないことをあれこれ言ってくる。見た目や服装などをけなす。こちらの意見に耳を貸さず一方的にまくしたてる。こういった攻撃に耐えられなくなると交渉を早く終わらせたくなって不利な条件に合意してしまうおそれがあります。

この問題への対応方法は

Recast an attack on you as an attack on the problem.

あなたへの攻撃を問題への攻撃に転換させよう。

Listen to them, show you understand what they are saying, and when they have finished, recast their attack on you as an attack on the problem.

相手の言い分(というか怒りや不満)をひとまず全部聞きます。相手が怒りの感情をすべて吐き出し終えるまで反論したり感情的になったりせずじっと耳を傾けます。やがて相手は次第にクールダウンしていきます。相手が落ち着いたら交渉再開です。

case3 : 相手の要求がエスカレートする- Escalating demands. (p141)

交渉を重ねるたびに、既に合意したはずの内容に対して新たな要求をしてくる。これもありがちです。こういったケースでは交渉の方向性をお互いに確認し交渉をいったん中断するのがポイントです。そうすれば再開時には相手側も決定事項を尊重するようになるようです。

It is easier to defend principle than an illegitimate tactic. Don’t be a victim. (p149)

個人-個人の交渉ならともかく個人-国家のように相手とのパワーバランスが違いすぎたらなかなか言い出せないのではないかと心配ではありますが。

ですが双方とも目指すところは「お互いの利益になる合意」です。相手のことを「おっかない人たち」などと決めつけず根気よく交渉を進めればうまくいくはずと思いたいですね。

つづく。