交渉術は「技術」。やってみなければ上達しないしやってみるほど上達する。
positional bargaining(従来の交渉スタイル)に慣れている人は新しい手法に戸惑うだろうし、最初のうちは失敗するかもしれません。それでも試行錯誤しながら経験を積んでいけば必ずprinciple negotiationの達人になれます。だそうです。
Studying books on tennis, swimming, riding a bicycle, or riding a horse will not make you an expert. Negotiation is no different. (p149)
実際にトライしなければ上達しないことはたくさんあります。スポーツなんか特にそう。本を読んでわかったつもりでもラケットを振らなければいつまでたってもテニスは上達しません。
けれど自転車に乗ることができたなら長いブランクがあっても体が感覚を覚えているし、違うタイプの自転車にだって少し時間をかければ(ロードバイクは難しかった。ビンディングペダルとか。慣れるまでは何度も転びました)漕ぎ出すことができます。
「交渉術」は技術の一つなんですね。最初は多少の努力と練習が必要だけれど一旦習得すればどんなタイプの交渉にも応用できるはずです。まずは身近なところから、家族や友人との関係の中からでも少しずつ意識して実践していきたいと思います。
交渉における勝敗について
交渉における「勝利」には「一方の要求がすべて満たされた状態」というイメージがあります。それはもう一方が「敗北」つまり要求が通らなかったことを意味します。
principle negotiationにとっての「勝利」は「適切な交渉のプロセスを経て、双方の問題や要求事項を合意に導くことができた」ということを指しています。従って双方が「勝者」であり「敗者」は存在しないのです。
This book is about how to “win” that important game – how to achieve a better process for dealing with your differences. (p150)
おさらい:「人そのもの」が問題となる場合の対処方法
principled negotiation のひとつに「人と問題を切り離そう」がありました。仕事の場において組織のルールに従わない社員がいるとか、社員の行為に対して顧客からクレームが出た、といった「人そのもの」が問題となる場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。
Build a working relationship independent of agreement or disagreement. (p159)
相手の行為や態度を受け入れがたく感じるときほど相手との関係性がキーとなります。相手とよりよい関係を築けるような努力が必要です。
相手との関係が良くなったらそれはお互いを理解し意思の疎通が可能になったということです。であればその時点でpeople’s problemは解決していることが多い、と著者は言っています。
相手の行為に問題があるなら相手をよく観察し、なぜそういった行為をするのかその<理由>を考えてみます。相手の立場(position)に注目してみると相手の考え方を変えるきっかけが見つかりやすいかもしれません。
とはいっても。これは言葉でいうのは簡単だけれど実行するのがとても難しい問題だと思います。やはり何度も実践・試行錯誤してみることが大切ですね。
知りたかった疑問に答えてみる
本を読む前に感じていた疑問に対する答えをまとめます。
従来の交渉術(立場を巡る駆け引き)の利点と欠点
利点は、これまで一般的に取られてきた交渉方法なので馴染みがある…くらいでしょうか。欠点は下記のとおり。
- 一方が妥協し双方が納得する結果とならない可能性がある
- 交渉に時間がかかる
- 両者の関係を悪くする
- 交渉相手が複数になるとそれぞれの立場や関係性を決めることは難しい
ハーバード流交渉術の利点と欠点
利点は「従来の交渉術」の欠点の裏返しとなるわけですが下記の通りです。
- 双方が納得する結論を得られる
- 問題点に焦点を絞った交渉ができるため効率が良い
- 両者の関係を壊さない。場合によっては交渉前よりも良い関係になれる。
欠点は、本書によれば「ない」のでしょう。
個人がプライベートで直面しそうな交渉時の対応方法
プライベートで直面しそうな交渉例は本文中たくさん出ていました。
- 大家さんとの家賃交渉
- 家屋の売却に関する価格交渉
- 市場やフリーマーケットでの値引き交渉
- 家族の問題(夫婦関係・家を建てる際の希望調整)
などなど。ハーバード流交渉術はプライベートな事案にも適用できます。
「ハーバード流交渉術」は「交渉」以外に例えば会議での議論などにも使えないだろうか
使えると思います。ただし一般的には会議は「交渉」と比べると結論を出すために使える時間が短いと思いますので事前にテーマが分かっているなら自分の意見や相手の出方などについて十分にシミュレーションしておけば対応できそうです。
そうでなければ会議中に頭の中をフル回転させて臨まないと難しいかも。議題に反対する場合は自分のBATNAを決めてから発言したり、相手の意見の根本には何があるかを考えたり、応用できないことはなさそうですが。
おわりに
突然やってきた「交渉しないといけない」場面に落ち着いて対応したい。そんなときこの本は心強い味方になってくれると思います。上にも書きましたが、読んだだけでは身につかないので機会を見つけてちょこちょこと実践しておくといいですね。
おしまい。