ファブリーズの失敗 – 新製品の売り出し方に学ぼう
消臭スプレーファブリーズ。修造さんがCMしてるあれです。それまで同じようなコンセプトの製品が市場になかったため使い方を消費者に啓蒙しなくちゃ売れない。そこで前回出てきたCue – Routine – Rewardコンセプトに則ってマーケティングを行います。
- The cue : the smell of cigarette
- The reward : odor eliminated from cloths (p41)
レストランへ出かけたら衣服にタバコのにおいが…
→ファブリーズしたら嫌なにおいが取れてさっぱり!
- The cue : pet smells
- The reward : a house doesn’t smell like a kennel (p41)
ペットは可愛いけど匂いが…
→犬小屋みたいな部屋の匂いがすっきり!
家の様々な匂いに悩んでいる人は多いはず。ファブリーズの消臭効果には自信があるからきっと売れるはず!と意気込んでいたP&G(ファブリーズの製造販売元)はしばらくたっても売り上げが伸びず頭を抱えます。慌ててモニターの家を訪ねてみると皆1回使ってそれっきりと言うのです。というのもご存じのように人間の嗅覚は「匂いに慣れる」という特徴があります。「匂い物質」が存在したとしてもそれに慣れてしまったら、何とも思わなくなっていたら、ファブリーズの出番はありません。
Bad scents simply weren’t noticed frequently enough to trigger a regular habit. (p43)
「匂う」はファブリーズを使用するきっかけにはなれなかったのです。
How do you build a new habit when there’s no cue to trigger usage, and when the customers who most need it don’t appreciate the reward? (p43)
こうしてファブリーズは消費者にとって使うきっかけが見つからない残念な商品となってしまいました。P&Gはどう危機を乗り切ったのでしょうか?
Julioの実験 – craving
Julioはお猿さん。日本ではチンパンジーのパン君が大人気ですね。Julioはディスプレイに映し出された図形を見たらレバーを引くよう教わります。上手にレバーが引けたら大好きなジュースをご褒美にもらいます。図形 → レバー → ジュース を何度も繰り返す訓練を続けます。最初のうちはJulioの脳の動きが
- 図形を見る
- レバーを引く
- ジュースがもらえる
- バンザイ!(喜ぶ)
だったのが訓練していくうちに
- 図形を見る
- バンザイ!(ジュースがもらえることを思い出して)
- レバーを引く
- ジュースがもらえる
に変わっていきます。「ジュースがもらいたくてレバーを引く」と新しい思考パターンが生まれるのです。そうなるとレバーを引いてもジュースがもらえなかったりあまりおいしくないジュースがでてきたりすると「期待と違う」→「不満」という感情が湧いてきます。
「ジュースがもらいたくてレバーを引く」という思考、これをcraving(願望、切望、渇望)と呼び、cravingはHABIT LOOPを形成するのに大切な要素なんですね。
But as we associate cues with certain rewards, a subconscious craving emerges in our brains that starts the habit loop spinning. (p48)
ファブリーズとcraving
ファブリーズが売れなかったのは消費者にとってcraving「使いたい!」という要素が商品にない(正確には商品のアピールの仕方が悪かった)からでした。そこでP&Gのチームは考え、再びモニターを使って商品アピールのやり方を検討します。
あるとき調査チームは『ひとりの主婦が掃除機をかけた後やベッドメイキングの仕上げにファブリーズをスプレーしている』という情報を得ます。
Spraying feels a little mini-celebration when I’m done with a room. (p53)
その主婦は掃除が終わった後の儀式としてファブリーズを使っていました。これを聞いてP&Gのチームは閃きます。ちょっと長いですが
Each change was designed to appeal to a specific, daily cue : Cleaning a room. Making a bed. Vacuuming a rug. In each one, Febreze was positioned as the reward : the nice smell that occurs at the end of a cleaning routine. Most important, each ad was calibrated to elicit a craving : that things will smell as nice as they look when cleaning ritual is done. (p54)
まとめると
- cue : 掃除をする
- reward : (ファブリーズの)良い香りが部屋に漂う
- craving : 部屋をきれいにして良い香りで満たしたい
となりますね。それまでのファブリーズは消臭を目的とした無臭のスプレーでした。この発想を期に香りつきの商品が開発され瞬く間にヒット商品となったのは皆さんご存知の通りです。
Craving are what drive habits. And figuring out how to spark a craving makes creating new habit easier. (p59)
ところでうちにもありますがあまり登場の機会がなく、というのも
スプレーの後乾くまでに時間がかかる
→使うタイミングを微妙に選ぶ
→存在を忘れる
→habitにできてないです。P&Gさんごめんなさい。