brain rules-最終回 記憶を定着するために

3月26日の新聞広告に脳に関する本が出ていましたよ。

『脳が認める勉強法』

2016032903
 

『brain rules』が脳のしくみを幅広くカバーしているのに対して『脳が認める勉強法』は勉強法に特化した本のようです。読んでみると両者に共通する記述は多く、どちらの本も脳科学の分野においては広く知られていることが書かれています。

記憶を定着するために

少し視点を変えて、指導する側の心構えをまとめておきます。
学校や塾の先生、スクールの講師といった教育に携わる人だけでなく、会社やサークルでメンバーに指示をするようなときにも役に立つと思います。

Start with a compelling introduction (p140) – つかみを工夫しよう

相手の興味を引きたいときは最初にインパクトを与えられるかどうかが勝負の分かれ目。別に戦わなくてもいいんですが。タイミングの原則というものがあります。新しい情報が長く記憶に留まるかそれともすぐに忘れてしまうのか、というのはその情報に出会った時、それも最初の30秒間のインパクトに左右されます。

Create familiar settings (p141)

学習する環境と学習する内容はそろえたほうが内容が頭に入りやすい。いつもの教室で理科の授業を受けるよりも理科室で授業を受ける方が効果的ということです。実験でなく座学だとしても。

At the moment of learning, environmental features – even ones irrelevant to the leaning goals – may become encoded into the memoriy, right along with the goals. Environment then becomes part of elaborate encoding, the equivalent of putting more hndles on the door (p141-142)

 

Allowing time between repetition is better than cramming. (p156)

何時間も休まずに勉強するよりも時間をおいて繰り返す方が効果的。

The way to make long-term memoru more reliable is to incorporate new information gradually and repeat it in timed intervals (p159)

 

パソコンにはメモリという電源を切ると内容が消えてしまうタイプの記録装置とハードディスクという電源を切っても内容が保持されるタイプの記録装置を持っています。パソコンで作業が終わったら最後に保存をしてから電源を切ります。

脳にも一時的な記憶エリアと長期的な記憶エリアがあります。情報はまず一時記憶エリアに格納され、その中の一部が長期記憶エリアに移動します。長期記憶エリアに入った情報は長く記憶に残ります。

記憶を定着させるためには情報を積極的に長期記憶エリアに移す、つまり『長期記憶エリアに保存』してあげればいいのです。脳にとっての『保存』は『時間をおいて繰り返す』こと。指導する立場だったら繰り返すための時間を作ってあげるといいですね。

好奇心はパワーを引き出す原動力

いくつになっても好奇心旺盛な人は若々しい、などと言われます。新しいことを知るとそのたびに脳は新しい神経細胞[ニューロン]を作り脳内にはりめぐらされた神経ネットワークを更新します。いくつになっても、年齢にかかわらず脳は活性化するんだそうです。

新しい知識に触れる・美しいものを見て感動する・会いたい人に会いに行く…新しい刺激は脳にとっても心の安定にとっても大切なこと。気になったことはすぐにトライしてみるという姿勢が充実したハッピーな人生を運んでくれそうですね。

おしまい。

 

brain rules-3 プレゼンを成功させるポイント

プレゼンテクニックについてはいろんな人がいろんなことを言いますし、たくさん本も出ています。
今日は脳科学の観点から考えた『プレゼンを成功させるポイント』をまとめます。

10分ルール

集中して人の話を聞ける時間はせいぜい10分間だそうです。プレゼンの持ち時間が10分以内ならなんとかオーディエンスの興味をひきつけたまま話を無事に終えることができそうですね。もっと長い時間のプレゼンなら伝えたい内容をいくつかに分けてひとつのテーマが10分以内におさまるように組み立てます。

どんなに素晴らしいスピーチであっても9分を超えるとオーディエンスは退屈します。そこで9分を過ぎたら目を覚ましてもらうための『フック』を仕込みます。それまでの9分間のおさらいをしたり、オーディエンスに質問を投げかけてもいいですね。次の10分間の予告でもいいかも。ちょっと空気の流れを変えるイメージです。

After 9 minites and 59 seconds, the audience’s attention is getting ready to plummet to near zero.  … Not more information of the same type. (p121)

盛り込みすぎない

10分間で話す内容は『大きなテーマをひとつ』に絞ります。冒頭でコンセプトを伝え、話そうとしている内容をおおまかに理解してもらってから徐々に細かい内容に踏み込みます。トップダウン形式ですね。

脳はいきなり細かい情報を与えられても処理する(=理解する)ことができません。その一方で、脳は『概念のち詳細』という階層構造を理解することが得意です。このブログもそうですが、ある程度長い文章を書くときは『見出し』を使って文章の構造をはっきりさせたほうが読み手に取っても書き手にとってもわかりやすい文章になります。これは話すときも同じです。

Each segment would cover a single core concept – always large, always general, and always explainable in one minute. The brain processes meaning before detail, and the brain likes hierarchy. (p121)

マルチメディアを駆使しよう

スライドを使ったプレゼンをするときには文字だけでなく図やグラフ・イラストを入れるようにします。文字を理解するためには脳はまず文字を『形』として認識し、その後で単語なり文章なりの『意味』を認識するというふたつのステップを実行します。図やグラフは描かれているもの(『形』)がそのまま『意味』を表すため脳はワンステップで意味を認識することができます。

つまり文字情報を理解するプロセスは図を理解するプロセスよりも時間がかかるのです。さらに、図は一般的に文字よりもはるかに大きいため、注目されやすいという利点もあります。

色とサイズと動き

We pay lots of attention to color.
We pay lots of attention to size.
We pay lots of attention if the object is in motion. (p195)

文字の色やサイズを工夫しましょう。動画やアニメーションはオーディエンスの注意を引き『印象に残りやすい』という点で効果的ですね。ただしアニメーションの使い過ぎは逆効果。プレゼンが終わってオーディエンスがスライド切り替え時のアニメーションの話ばかりしていたらそのスライドは失敗作だったということ。

文字・図・音声をうまく使おう

  • 文字より図を多くしよう
  • 文字と図は同時に表示しよう
  • 関連する文字と図は近くに配置しよう
  • 関連が薄いものを同時に表示しないようにしよう
  • 動画を使う時は字幕(文字)ではなくナレーション(音声)の方が効果的

(P126-177、P169を意訳)

そうはいっても大事なのは

スライド作成のテクニックをいろいろと書きましたが、すぐれたプレゼンターのプレゼンは『内容がよく練られていて』、『表情やジェスチャーが豊か』で『間の取り方がうまい』んですよね。オーディエンスがスライドばかり見ていてプレゼンターに注目しないのはやはり失敗プレゼンです。話し方や表情などは練習して場数を踏まないことには上達は難しく、慣れるまでは自分のプレゼンをビデオに撮って客観的な目で何度も見るといいですね。スライドはおまけの位置づけ、ストーリー作りと話す練習にたくさん時間をかけてくださいね。

つづく。

brain rules-2 睡眠学習の効果

今日のテーマは睡眠です。『寝る子は育つ』といいますが、睡眠は身体だけでなく脳にとってもかなり大切。

人は寝ないとどうなるのか

まずは1959年に行われた『寝ないことが身体的・精神的に与える影響』という実験について。

被験者の仕事はラジオのDJ。実験中も毎日ラジオの仕事を続けました。実験開始からしばらくは彼の様子に変化はありません。いつものように冷静で、ユーモアを交えた語り口は普段通りの彼そのままです。

72時間を過ぎたあたりから行動に変化が見られます。いつもの彼とは違って周りにいる人に対する攻撃的な言動が目立つようになります。どうやら幻覚が見えているようです。この実験は研究室の中ではなく人通りの多い街中に置いたガラス張りのブースで行われました。彼を知っている一般の人や、番組スタッフや、もちろん実験に関わる研究者が彼の行動を見張っているのです。研究者が認知テストを行ったところ、通常の半分程度に認知能力が低下していることがわかりました。

120時間(5日間)を過ぎると彼のメンタルパワーは時間の経過に伴ってどんどん低下します。研究者はこれ以上は危険と判断し実験は終了となりました。

健康的に暮らすために必要な睡眠時間

After all of these centuries of experience with sleep, we still don’t know how much of the stuff people actually need. Generalizations don’t work. (p47)

 

The Power of Habitを読んでいた時、早寝早起きを習慣にしたいと宣言しました。現在の起床・就寝時間はその日のスケジュールによることが多いのですが、もし理想的な起床・就寝時間があるならそれに従ってみようと思ったのです。ところが著者によると適切な睡眠時間というのは個人差が大きく一般化はほぼ不可能なようです。

ある研究では7時間未満の睡眠で試験を受けると成績はいつもよりも低下したという結果が出ています。別の研究では一晩徹夜をするとパフォーマンスが30%低下し、二晩徹夜をするとパフォーマンスは60%低下するという結論が出ました。

何時間寝ればOKという絶対的な数値はなくてもその人にとって『睡眠が足りてない』状態では本来の能力を発揮できないのですね。誰でも経験上知っていると思いますが念のため。

寝だめは有効なのか

普段は十分な睡眠がとれなくても休日などにのんびり起きることがあると思います。不足した睡眠時間のリカバリは可能なのでしょうか。

For example, if healthy 30-year-olds are sleep deprived for six days, parts of their body chemistry soon revert to that of a 60-year-old. And if they are allowed to recover, it will take almost a week to get back to their 30-year-old systems. (p48)

 

睡眠不足は体の老化を早めます。例えば30歳の健康な人が1週間睡眠不足で過ごすと体は60歳の人と同じ状態に変わってしまいます。でも翌週十分な睡眠をとればまた30歳の体に戻れるとのこと。不足した睡眠分を補うことができればリカバリは可能です。『寝だめ』には一定の効果がありそうです。

睡眠学習

子供の頃雑誌(『中一時代』とかそういう感じの)によく載っていた『睡眠学習器』の広告。暗記物が苦手なのでとても欲しかったです。もちろん買ってもらえませんでしたが。そもそも『睡眠学習』は効果があるのでしょうか。

The answer was yes, if you allow them to sleep on it. (P50)

 

学生に『ある数学問題の別の解き方を12時間後に答えなさい』という課題を与えたところ別解を見つけた学生は20%ほど。同じ課題を与え『12時間の間に睡眠を8時間程度とること』と条件をつけた場合は別解を発見した学生が60%に増えました。寝ている間も(無意識のうちに)問題に取り組んでいたかのようです。

『夢の中でひらめいた』ことが世界を揺るがす大発見という話をときどき耳にします。寝ている間の脳は起きている時とは違う活動をするため『アイディアが夢に出てきた』は誰にでもありうることなのです。起きているときに新しいことを知ると(勉強だけでなく新しい体験などでも)、脳は寝ている間 – 外界から情報が遮断されている状態 – に新しく取得した知識に何度もアクセスして記憶を固定します。

本人は寝ているので無意識の行為なのですが脳は一生懸命そのことを考えています。寝る前に勉強したり考え事をすると、起きたときには勉強したことがより理解できていたり考え事の答えが見つかることは珍しくないそう。難しい問題に徹夜で取り組むよりも、だいたい考えたところで寝てしまえば翌朝には答えが見つかってすっきり起きられそうです。

脳のしくみを検証すると『睡眠学習』というのは理にかなっていることがわかります。『睡眠学習メソッド』(私がつけた名前)は学習以外の場面でも有効で、グループで作業をするときなどメンバーの意見がまとまらなかったりよいアイディアが出ない時などはいったん議論を打ち切ります。翌日議論を再開すれば、前日の内容が寝ている間に頭の中で整理されているのでより効率良い話し合いができるはずです。

The neurons of your brain show vigorous rhythmical activity when you’re asleep – perhaps replaying what you learned that day. (P55)

つづく。

brain rules-1 有酸素運動は脳にも効くよ

brain rules
– 12 Principles for Surviving and Thriving at Work, Home, and School

著者

John Medina

分子発生生物学者として、人間の脳の発達や精神障害の遺伝学的研究を専門とし、研究コンサルタントとしてバイオテクノロジー産業や製薬産業でメンタルヘルスの研究に従事する。- Amazon著者紹介より

概要

先日脳についての記事をアップしたように最近私の中で『脳』がブームです。本書は科学的な理論にもとづく説明と、「こうすればもっと効率的・効果的に仕事や勉強ができるよ」という具体的なアイディアから構成されています。

原書

邦訳本

brain rules公式サイト(英語)

目次

  1. Introduction
  2. Exercise
  3. Sleep
  4. Stress
  5. Wiring
  6. Attention
  7. Memory
  8. Sensory integration
  9. Vision
  10. Music
  11. Gender
  12. Exploration

人間が生きるために必要な3つの要素

  • 食べ物
  • 酸素

健康な人の場合、30日食べなくても生きられます。1週間水を飲まなくても生きられます。健康じゃなくなっちゃいそうだけど。

でもたった5分間呼吸ができないだけで人間の脳は深刻なダメージを受けるのです。

酸素のはたらき

食べたものが消化されると最終的に電子がたくさん生まれます。過程をかなり端折ってますが。電子は体にとっては有毒で、ほおっておくと体内は毒でいっぱいになってしまいます。

私たちの体が毒まみれにならず生きていられるのは酸素のおかげ。肺から取り入れた酸素が血管を通って体内の有毒な電子を回収し、(oxgen spongeというらしい)また血管を通って肺に戻ったところで有毒電子は二酸化炭素として体外に排出される。これが呼吸です。

ということは、体のすみずみまで血液が流れていれば老廃物(有毒物)がすみやかに排出できるので体はより良い状態を保てます。呼吸ができなくなったり血管が詰まったりすると生命が危機的状態になるのは、有毒物が体内にたまってしまうからなのです。

体のすみずみまで血液が流れるようにするには
→血流を増やすとともに毛細血管も増えたらうれしい
→エクササイズをすることによって血行がよくなり毛細血管は増える

ということのようです。血行が良くなるのは実感できますが血管が増えてるなんて知らなかった。

さらにエクササイズで増えるのは体の毛細血管だけではない。脳の毛細血管も同じように増えるんだそうです。

As the flow improves, the body makes new blood vessels, which penetrate deeper and deeper into the tissues of the body. (p30)

脳の血行がよい人は実年齢に関係ない若々しさを持っているそうです。何かをしたい、しようという意思の力が湧いてくるんですって。登山の三浦雄一郎さんとか、ああいう方のイメージです。

どんなエクササイズが効果的なのか

年齢に関係なく、子供でもシニアでも誰にでも1カ月程度で効果が実感できるとのこと。子供の場合はテストの成績が良くなったという研究結果が載っています。

週に2~3日、30分程度の有酸素運動をしよう

軽いランニングやエアロバイク、もちろんウォーキングでもよさそうです。息が上がるか上がらないか程度のスピードでいいと思います。天気がよければ犬の散歩は40分ほど、距離にして2-3kmくらい。私の息は全然上がらないですがウォーキングといってもいいでしょう。

『健康のために運動を』は足腰を鍛えるとか、筋肉を鍛えるためと思ってました。脳のためにも運動が必要だなんて。

今日のまとめ

Our brains were built for walking – 12 miles a day ! (p35)

1日に20km歩く – ように人間の脳は作られているそうです。昔々人類が狩りをしていた頃の、過酷な暮らしに耐えられるように脳や体はプログラムされている。月日が流れても人間という動物の本質はそんなに変わっていないから、動かないでいるといろんな方面に支障が出てくるのですね。

つづく。